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2025.05.01 THU

北欧のアイコン的チェアの魅力を探る Vol.2 ーCH24 “Yチェア”ー

北欧のアイコン的チェアの魅力を探る Vol.2 ーCH24 “Yチェア”ー

コンテンツ・テキストデザイナー 安達 剛士

1982年、鳥取県生まれ。
北欧インテリアショップに10年以上勤務し、鳥取、東京で約8年間店長を経験。北欧の暮らしにある本質的な豊かさに魅了され、自分らしさを楽しめる暮らし、コーディネートを多数手掛けた。
2022年より故郷の鳥取に戻り有限会社フォーリア・インテリア事業部を設立。インテリアコーディネーター資格を持ち、空間ディレクションの他、暮らしを楽しむ発信を行うなど広くインテリアに携わる。
2児の父でありながら、子どものように好奇心旺盛なインテリア愛好家。

北欧家具を代表する椅子「CH24」

世界でも圧倒的な知名度を誇る北欧・デンマークの名作椅子「CH24」。私たちにとっては、特徴的な背もたれの見た目から、「Yチェア」の呼び名の方が親しみがあるかも知れません。デザインが誕生してから70年以上も生産が続けられているという事実がその価値を証明しており、人気は今も衰えず、もはや“永遠の定番品”ともいえます。ここまでの存在になるには、他のプロダクトとは一線を画す何かがあるはず。今回は、そんな“Yチェア”の魅力に迫ります。

Yチェアの原点

CH24は、デンマーク家具デザインの巨匠、ハンス J.ウェグナーの代表作です。ウェグナーといえば生涯で500脚以上もの椅子をデザインしたといわれ、数々の名作家具を世に遺した人物。その中でも、中国・明代の椅子「圏椅」をリ・デザインした流れを汲む作品群は、彼が家具デザイナーとして成功を収めた過程で重要な意味を持ちます。フリッツ・ハンセンとの協働で1940年代中頃に発表された2脚の椅子(FH4283、FH1783/チャイナチェア)が、CH24“Yチェア”やJH501(現:PP501)“The Chair”へと繋がった系譜は、その象徴的な例です。

ハンス J.ウェグナー

良質な家具が量産化されたことの意義

1940年代後半、デンマークで頭角を表し始めていたウェグナーに新製品のデザインを打診したのが、デンマーク家具の老舗メーカー、カール・ハンセン&サンでした。デンマークでもいち早く機械化を図り、家具の量産体制を構築していた同社。その強みを活かすことを考えたウェグナーは、自身が手掛けたチャイナチェアを一般国民でも手の届く価格のプロダクトへリ・デザインしました。そこで生まれたのが CH24です。多くの人が良質な家具に触れることのできる暮らしは、デンマークという国が目指した大きな方向性の一つでもありました。それを実現できたのは、家具職人としての深い知見を持つデザイナーであるウェグナーと、それを確かな技術でかたちにした作り手の協働があったからに他なりません。

ただ美しいだけではない、考え抜かれた構造

CH24を目にすると、まずは彫刻的な美しいフォルムと端正なペーパーコード座面に目が行くことでしょう。その1脚が誕生するのに、100以上もの製作工程を経ていることには驚かされます。14の木製パーツと約150mにも及ぶペーパーコードで構成されるCH24ですが、特に目を引くのが積層板でできているYの字のパーツです。2次元のカーブをつけた板をU型の背もたれと座枠に差し込むことで、人の背中に沿う3次元のカーブが生まれています。また、肘を支える位置から伸びるパーツがそのまま後脚となることで、見た目と強度のバランスを絶妙に保っているのもポイントです。

愛称が物語る親しみやすさと日本での歴史

私たちにとって「Yチェア」として馴染み深いCH24ですが、欧米では「ウィッシュボーンチェア」とも呼ばれています。背もたれのYの部分が鳥の胸と首の間にある骨に似ていることに由来するそうです。いずれもCH24が誕生した時から呼ばれているものではなく、後になって生まれた呼称です。世界各国で愛称が浸透するほど親しまれているという証ですね。日本でこのCH24が知られるようになったのは1960年前後からとも言われており、日本の暮らしに根付いてからもすでに四半世紀以上が経過していることになります。

デザインの価値を守る

北欧の名作家具が日本でも広く普及することは、私たちの暮らしに新たな豊かさをもたらしてくれるきっかけにもなります。ただ、そんな人気の影に、リプロダクト品(ジェネリック品)といった模倣品が存在するのも事実です。2011年、日本で家具として初めて立体商標登録を認められたのがCH24です。これは、“Yチェア”が日本国内でも圧倒的な知名度を誇り、いかに特別な椅子であることを物語っています。長く積み重ねられてきた歴史と実績がデザインを守ることに繋がった好例といえます。

アイコン的なデザインが生まれる条件

CH24が北欧のアイコン的チェアである所以。それは、美しさ、品質、価格の整ったバランスが多くの人にとってわかりやすいプロダクトであること。そこには、ハンス J.ウェグナーとカール・ハンセン&サンの協働という欠くことのできない背景もあります。デンマーク家具の醍醐味を伝える名作家具たちの中にあって、身近で親しみやすい存在のYチェア。雑誌やCMでも目にすることの多いこの椅子ですが、私たちがそれを使い、育てることが、また後世へと名作デザインを受け継いでいくことに繋がるのです。


参考:
・Yチェアの秘密/ 坂本茂、西川栄明・著 / 誠文堂新光社 / 2016年
・流れが分かる!デンマーク家具のデザイン史 / 多田羅景太・著 / 誠文堂新光社 /2019 年

 

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fremtiden

「fremtiden」はデンマーク語で
「未来へ」を意味する言葉。
私たちの決意と願いを込めて名付けました。

携わるすべての人たちが心豊かに過ごすために
「過去〜今〜未来」への道のりを
美しいところも、今起きている課題も
すべて正直に、皆等しく伝えます。

お店を通して、育てる人、作る人、使う人
みな理解し合い
ものにまつわるすべてを、
大切に丁寧に愛着をもって作り
使い、育て、次の世代へ
繋げていくことを願っています。

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