幅田 舞
元幼稚園教諭。森のようちえんに魅了され、語学習得の為カナダで英語を学んだのちに発祥の地と言われるデンマークへ。
北欧特有の人生の学校と言われる「フォルケホイスコーレ」に5ヶ月間滞在した後、縁あって現地のファミリーと暮らしデンマークの文化の本質に触れる。
2年間本場の森のようちえんでボランティアを経験し、帰国後は田舎暮らしに憧れて鳥取へ移住。
地域おこし協力隊として3年間町おこしに従事。
鳥取で結婚・出産し現在は2児の母。
子育て・田舎暮らし・趣味・仕事どれも愉しむべく奮闘中。
『スツール60』の魅力を探る
椅子の座り心地や、椅子が暮らしに与える変化をテーマに、3種類の北欧デザインの名作チェアを実際に使って感じた実用性や使い心地を綴る体験コラム。
これまでの2回は、デンマークデザインの椅子『セブンチェア』と『CH24』を取り上げました。
今回で最後となる3回目は、フィンランドの家具メーカー アルテック社のアルヴァ・アアルトによってデザインされた『スツール 60』です。
何よりの魅力は、椅子本来の役割である−座る−を越えたところにある用途の幅広さ。これまでの2回のチェアとはひと味もふた味も違う『スツール 60』の魅力をぜひご一読ください。
目次
時代を越えて愛されるフィンランドの名デザイン
スツールとは、背もたれや肘置きのない椅子で、実はその歴史は椅子よりも古いのだそうです。
フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトが『スツール 60』をデザインしたのは1933年。これまでご紹介した2脚のチェアも、デザインされてから70年近く経つことに驚きましたが、このスツールは実に90年以上の歴史があることになります。

『スツール 60』は、フィンランド産のバーチ材(樺)が使用された、優しい風合いのあるとてもシンプルな丸椅子。アアルトが開発した「L-レッグ」という技術を用いた脚の曲線は、とても美しく独特の存在感を放ちます。
カラー展開が豊富な中で、今回は元気をもらえるようなビタミンカラーのイエローを選びました。
3本脚で組み立て式 『スツール 60』の特徴
『スツール 60』は組み立て式。パーツは、丸い座面と3本の脚、それぞれの脚を固定するためのネジ3本ずつというとてもシンプルな構成です。
ネジをまっすぐに入れることを意識すれば、女性ひとりでも簡単に組み立てられました。電動ドライバーがあると、よりスムーズに組み立てが進みそうです。

組み立てが終わり最初に感じたのは、想像していたより座面が広いということでした。我が家にあるアンティークのスツールと並べてみると、その違いは一目瞭然。
腰掛ける程度のものではなく、しっかりと深く座れる広さがあり、安心感があります。この座面の広さは「座る」以外の使い方のポイントにもなるところ。

3本脚のデザインは、なんといっても見た目がおしゃれ。脚が床に向かって広がらず、真っ直ぐに伸びているため、とてもスッキリとした印象です。
座り心地としては基本的には安定感があるのですが、私は3本脚の椅子に慣れていないこともあってか、座る位置や体重のかけ方によっては傾きやすく、座り慣れるまではごく稀にヒヤリとすることがありました。

我が家の子どもたちも興味津々で座りたがりますが、ちょっとした拍子に椅子ごと倒れそうになるので、そういった環境の場合は4本脚のものや子ども用のものを検討しても良いのではないでしょうか。
使い方は無限大 『スツール 60』と楽しむ暮らし
正直なところ、サブチェアというイメージが強かったスツール。「座ること」はもちろんスツールの大事な役割なのですが、使い始めてから日を追うごとに、用途の多さと手軽さの魅力に気づかされる日々でした。我が家での『スツール 60』の活躍ぶりをご紹介します。
【座る -chair- 】
我が家の狭いキッチンでは、バタバタする朝は台所の作業台で食事をすることもあります。ダイニングチェアを置きにくい場所ですが、スツールがあれば作業台もあっという間に食卓に早変わり。
使い終わればサッと入れ込んでおけばスペースは広がり、動線の邪魔になりません。書き物や縫い物をする時に使う、折りたたみ式のテーブルにもぴったりの高さでした。

【置く-table- 】
ソファーでくつろぐひと時にはサイドテーブルとしても大活躍。座面の広さのおかげでカップとお皿を置いても十分にスペースがあります。子どもたちがおやつ時間を楽しんだり、パソコンを置いて1人映画鑑賞したりすることも。

【 飾る -interior- 】
普段チェアとして使わない時は、インテリアとしてディスプレイすることもできます。何も置かなくても、そこにただあるだけで空間がおしゃれになるのはもちろんのこと、植物を置いたり、カゴに入った日用品を置いたりするだけで、暮らしに彩りを与えてくれます。
今回お迎えしたイエローのスツールは、一際鮮やかなカラーが目を惹き、空間に楽しさを与えてくれました。

【 他にも -and more…- 】
玄関先に置いておけば靴を履く時の腰掛けやちょっとした荷物置にもなります。ベッドサイドでは、ライトと本を置いておくとおやすみ前の読書の時間にも一役買ってくれそう。個人的には、洗濯物を干す時にランドリーバスケットを置く台としてとても重宝しました。

暮らしに溶け込む自由な道具
実際に『スツール 60』を使ってみて、ここまで暮らしに溶け込む使い方ができるとは想像以上でした。座面の広さや脚の高さなど、絶妙なサイズ感には、「座る」ことを含めた人の暮らしが考え抜かれたこだわりが感じられます。
ダイニングチェアが主役だとすれば、『スツール 60』は、あらゆる場面でいい仕事をする名脇役のような存在。今では、「一家に一脚はあるといい!」と思うほどです。
使う人や環境を選ばず、気分によって置く場所を変えられる手軽さも大きな魅力。来客時はチェアとして、普段は暮らしの道具のひとつとして――。日常のさまざまな場面で活躍してくれる頼もしい存在です。

長く人々に愛される椅子を暮らしに
これまで3回に渡り、北欧デザインの椅子を暮らしに取り入れた感想を綴ってきた名作チェア体験コラム。
「座る」、「触れる」、「使う」、「眺める」――。
日々暮らしの中で椅子と向き合い、感じたのは、「椅子を選ぶ」ということは、暮らしの本質を感じ考えるということ。椅子が変わると、日常の中の何気ない小さな心の動きが満たされていくんです。
北欧デザインの椅子は、機能性や実用性だけでなく、素材やデザインに至るまで深く追求されてきたからこそ、「座ること」以上の価値を持つ暮らしの道具として、長く人々に親しまれ愛され続けているのではないでしょうか。
そこには、家族や友人など大切な人が集う家で、居心地よくあたたかな時を過ごす。そんな北欧ならではの文化が息づいているように感じます。

毎日からだを預け、暮らしに寄り添ってくれるパートナー。
いつの日か、お子さんやお孫さん、大切にしてくれる誰かのもとへ――。世代を越えて受け継がれていく、そんな未来を思い描きながら、お気に入りの一脚を選んでみてはいかがでしょうか。今回の名作チェア体験コラムが、そのお手伝いになれると嬉しいです。