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2024.02.22 THU

Vol.9 北欧のデザイナーたち(フィンランドの巨匠)

Vol.9 北欧のデザイナーたち(フィンランドの巨匠)

コンテンツ・テキストデザイナー 安達 剛士

1982年、鳥取県生まれ。
北欧インテリアショップに10年以上勤務し、鳥取、東京で約8年間店長を経験。北欧の暮らしにある本質的な豊かさに魅了され、自分らしさを楽しめる暮らし、コーディネートを多数手掛けた。
2022年より故郷の鳥取に戻り有限会社フォーリア・インテリア事業部を設立。インテリアコーディネーター資格を持ち、空間ディレクションの他、暮らしを楽しむ発信を行うなど広くインテリアに携わる。
2児の父でありながら、子どものように好奇心旺盛なインテリア愛好家。

“北欧家具”と言われますが・・・

ここまで連載を通してご紹介してきた、デンマーク家具における黄金期に活躍したデザイナーたちのエピソード。デンマーク家具を北欧家具と大きな括りで呼ぶこともあります。ただ、一般的に総称される北欧家具には、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーといった国々のデザインも含まれます。当然それぞれに代表するデザイナーが誕生し、象徴的なプロダクトが生まれた歴史があるのです。それは、デンマークとは風土の異なるストーリーがそこに存在したことも意味します。最終章となる今回は、そんなデンマークとは別の北欧に生まれた物語をご紹介します。

フィンランドデザインの生い立ち

北欧デザインを語る上で、デンマークと並んで挙げられることが多いのがフィンランド。みなさんはどんなイメージをお持ちでしょうか?オーロラやサウナといった豊かな自然に囲まれた景色やアクティビティでしょうか?また、イッタラやマリメッコなどのブランドに見られる鮮やかで優しい色づかいの食器やテキスタイルでしょうか?デザインと自然とが何となく結びつくイメージのフィンランド。その特性について簡単にお話しします。

もともとデンマーク同様に地下資源に恵まれないフィンランドは、かつてスウェーデンやロシアの統治下にあり、1917年にようやく独立を果たした国です。国土のほとんどが湖と森林(森林は国土の3分の2といわれる)という自然大国。そんな環境下、家具づくりにおいては1920年代ヨーロッパに広がった工業化の波には乗らず、独自の路線を進むこととなりました。その中心となった人物が、エリエル・サーリネン、アルヴァ・アアルト、イルマリ・タピオヴァーラといったデザイナーたちです。

繋がっていくデザイナーたちの影響

フィンランドのモダン家具の歴史を紐解く足掛かりとなるのが、建築家エリエル・サーリネンです。パリ万博のフィンランド館(1900年)やヘルシンキ中央駅新駅舎(1919年完成)を手掛けたことで知られる彼の事務所では、かつてデザイン界の巨匠アルヴァ・アアルトが勤務していたことも知られています。その後サーリネンは、1923年にはアメリカへ拠点を移し、世界的なデザイナーとして有名なチャールズ&レイ(当時はカイザー)・イームズ夫妻やハリー・ベルトイアなどの建築家やプロダクトデザイナーも指導しました。1900年代初頭以降の建築や家具デザインの起点ともいえる人物です。

ヘルシンキ中央駅新駅舎

そしてフィンランドを代表する最も著名なデザイナーとして名が上がるのが、アルヴァ・アアルトでしょう。建築家として成功を収めましたが、プロダクトデザイナーとしても歴史に大きく影響を与えました。1920年代にヨーロッパを席巻した「モダニズム主義」に魅了された彼は、「すべての人の暮らしに良いデザインを」という理念を掲げ、デザイン大国・フィンランドの礎を築きました。モダニズム主義の影響を受けながらも、自然と共生する北欧らしさも取り入れた作品は、有機的なフォルムや素材など随所に彼のこだわりを見ることができます。

アルヴァ・アアルト

アルヴァ・アアルトは、ロシアから独立したばかりのフィンランドが国として個性を持つためには、建築とデザインが重要なキーワードになると捉えていました。そんなアイデンティティが自国民の意識を高め、また諸外国に対しても経済の土台を築く基礎となると考えていたのです。1935年に他3人のメンバーとともに設立した「Artek」を通じて、彼の優れたデザインはフィンランド国内外へ広まり、アメリカでチャールズ・イームズの作品にも影響を与えたといいます。

そんなアルヴァ・アアルトの作品は、もちろんフィンランド国内の次世代のデザイナーたちにも影響を与えました。フィンランドを代表するデザイナー、イルマリ・タピオヴァーラもその影響を受けた一人です。海外でル・コルビュジェやミース・ファン・デル・ローエといった偉大な建築家の事務所で勤務した経験を持つ彼は、フィンランドらしい素朴さに機能性も備えた、後世に受け継がれるデザインを多数遺しました。学生寮のために手掛けた「ドムスチェア」などもその代表的な作品です。彼もまた、後進デザイナーの育成に大きく貢献しました。

イルマリ・タピオヴァーラ

デンマーク家具とフィンランド家具の違い

1920年代頃から家具デザインの潮目が変わったデンマークとフィンランド。どちらの国も身近な資源である木材を素材として、クラフツマンシップと量産化を融合させることで家具づくりを発展させた点で共通点があります。また、名を残したデザイナーがまた次なるデザイナーに影響を与えていった土壌もよく似ています。ただ、デザインが発展した背景や海外へ波及していった経緯には違いが見られます。

コーア・クリントの教えを受け継ぐデザイナーと、それに迎合せず独自の道を突き詰めたデザイナーによって家具の一時代が築かれたデンマーク。数多の名デザイナーが生まれ、工房やメーカーとのコラボレーションも多岐に渡りました。それまで培われた伝統のものづくりに新しい風を入れることで時代に合わせたアップデートを図っていったのがデンマーク近代家具の歴史といえます。

一方で、デザインの普及に独立したばかりの母国のアイデンティティを育む目的を持たせたフィンランド。家具においてはArtekというブランドが一つの大きな土台となり、フィンランドデザインを国内、同時に世界へ向けて発信されました。アルヴァ・アアルトが描いた「すべての人の暮らしに良いデザインを」という想いが、まさに人々の日常から窺うことができます。

そんな2つの国以外のスウェーデンやノルウェーといった北欧の国々もまた、それぞれに歴史を築いたデザイナーとそこにまつわるストーリーがある。そんな国々の家具を総称して「北欧家具」と呼ぶのです。

デザインに生きた人々の物語

アルヴァ・アアルトの自邸の大きな窓には、日本らしさを感じる「簾」が取り付けられています。彼のデザインへ傾けた情熱は、海外、日本のデザインへも高い関心として向けられました。他にも照明、食器、多方面で北欧デザインに影響を与えたといわれる日本のプロダクト。そんな事実もまた、私たちの暮らしと北欧デザインの距離を近づけるような気がします。北欧デザインが日本で受け入れられる理由として、美しさへの価値観に親和性がきっとあるのでしょう。

今に受け継がれる一つのデザインが誕生した背景にあったストーリー。そのデザイナーが歩んだ道のり。偉大な巨匠たちがひたすらに“デザイン”と向き合った歴史が、プロダクトに刻まれています。今から約100年程前、北欧家具の歴史が動き始めたとき、デザイナーたちは今私たちが送る暮らしをどれだけ想像していたでしょうか?当時のデザイナーたちの想いを受け継ぐ“道具”を、私たちが次の世代へと繋ぐとき、過去から続くストーリーも繋いでいきたいものです。


参考:
・流れが分かる!デンマーク家具のデザイン史 / 多田羅景太・著 / 誠文堂新光社 /2019 年
・歴史の流れがひと目でわかる年表&系統図付き 新版 名作椅子の由来図典 / 西川栄明・著 / 誠文堂新光社 / 2021年

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fremtiden

「Fremtiden」はデンマーク語で
「未来へ」を意味する言葉。
私たちの決意と願いを込めて名付けました。

携わるすべての人たちが心豊かに過ごすために
「過去〜今〜未来」への道のりを
美しいところも、今起きている課題も
すべて正直に、皆等しく伝えます。

お店を通して、育てる人、作る人、使う人
みな理解し合い
ものにまつわるすべてを、
大切に丁寧に愛着をもって作り
使い、育て、次の世代へ
繋げていくことを願っています。

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