コンテンツ・テキストデザイナー
安達 剛士
北欧インテリアショップに10年以上勤務し、鳥取、東京で約8年間店長を経験。北欧の暮らしにある本質的な豊かさに魅了され、自分らしさを楽しめる暮らし、コーディネートを多数手掛けた。
2022年より故郷の鳥取に戻り有限会社フォーリア・インテリア事業部を設立。インテリアコーディネーター資格を持ち、空間ディレクションの他、暮らしを楽しむ発信を行うなど広くインテリアに携わる。
2児の父でありながら、子どものように好奇心旺盛なインテリア愛好家。
400年の歴史の中で受け継がれてきたこと
有田焼が400年もの長い歴史を紡いできた背景には、その時代に求められるものにフィットにしてきた柔軟さがあります。それは、業務用の陶磁器であり、美術品であり、またタイルなどの工業製品といった一般食器以外の有田焼の側面です。それが長い年月をかけて伝統を受け継いできた、一種のスタイルといえます。
1616/arita japanのスタートもまた、次の時代をつくる有田焼の出発点でした。もちろん、新しいことへのチャレンジは簡単なものではありません。当初、上がってきたデザインアイデアを初めて目にした職人たちは、一堂に難色を示したといいます。それは、焼き物のセオリーを覆すような斬新なアイデアであり、焼き物に関わる人間であれば誰もが同様な反応を示すものでした。
ぶつかり合う「挑戦」と「経験」
最初に発表された2つのシリーズ「TY“Standard”」、「S&B“Colour Porcelain”」への取り組みは、ブランドの方向性を左右するとても大きな一歩となリました。デザイナーが求めたのは「直線的でフラット、高台(椀や皿などの底に設ける台)のないデザイン」。それは、高台がある器は和食のイメージを強めてしまい、ナイフ、フォークを使う食卓では受け入れにくいものとなってしまうという発想からきているものでした。そのデザインの背景には何より、「世界基準の多様な食卓で、長く使ってもらいたい」という強い想いがありました。
ただ一方で、工業製品と違って型通りにいかないのが焼き物です。焼き物は変形しながら約20%も縮まるため、直線、フラットといった真っすぐなラインほど技術として難しく、経験ある職人であれば尚更、そのデザインのハードルの高さを心得ていました。そのような実現の難しいデザインには、職人自らが特性にあった形状へと手を加えるというのが従来の流れでした。
全てを方向づけたある言葉
新しい風を吹き込むデザイナーと経験豊富な職人。その狭間で製品化への妥協をしなかったのが、このブランドの強さだったといえるでしょう。百田陶園・百田憲由氏はデザイナーの世界観をそのまま形にすることを優先し、職人たちからの口出しを禁じたといいます。「上がってきたデザインを徹底的に突き詰めて欲しい。」それが職人への強いメッセージでした。
それに対して職人も熟練した経験で応え、実現困難と思われたデザインはやがて強い個性を纏った器として実を結ぶことになりました。今では世界的に知られることとなった「1616/arita japan」。その魅力の裏には、“プロフェッショナル”がタッグを組んだ、こうした妥協を許さないものづくりがあったのです。