コンテンツ・テキストデザイナー 安達 剛士
1982年、鳥取県生まれ。
北欧インテリアショップに10年以上勤務し、鳥取、東京で約8年間店長を経験。北欧の暮らしにある本質的な豊かさに魅了され、自分らしさを楽しめる暮らし、コーディネートを多数手掛けた。
2022年より故郷の鳥取に戻り有限会社フォーリア・インテリア事業部を設立。インテリアコーディネーター資格を持ち、空間ディレクションの他、暮らしを楽しむ発信を行うなど広くインテリアに携わる。
2児の父でありながら、子どものように好奇心旺盛なインテリア愛好家。
その後を決定づける出会い
火災による被害からの工場再建。建築家のニコラス・グリムショウとともに計画したヴィトラ再建プランでしたが、数年後に訪れたある出会いによって、それとは異なる方向性へ導かれることとなります。それは、アメリカ人建築家、フランク・ゲーリーとの出会いでした。
フランク・ゲーリーがデザインした「ビーバーチェア」を、スペシャルエディションとしてヴィトラから発売したのをきっかけに、彼にヴィトラが所蔵している家具コレクションを収納する小屋の設計を依頼することとなります。それが、1989年に完成した「ヴィトラデザインミュージアム」です。
デザインミュージアムは、「会社の専門分野であるデザインのための美術館」であり、「ヴィトラの会社自体を表現し、社員の専門知識をさらに深めてくれる施設」として位置付けられています。
この文化施設の完成は、当初のグリムショウのプランであった「統一された企業アイデンティティを表現する場」から「大がかりなコラージュを創り出す場」へのプラン転換のきっかけとなりました。
その後、ヴィトラ敷地内には、ザハ・ハディドによる消防署「Fire Station」、安藤忠雄による会議室「Conference Pavilion」、ジャン・プルーヴェ兄弟によるガソリンスタンド「Petrol Station」などの建築が徐々に加わっていくこととなります。そうして、「Vitra Campus」と呼ばれる、デザインを発信し、人々がデザインに触れることのできる拠点が出来上がっていきました。ヴィトラの敷地は、バラバラの素材が組み合わさるように、いくつもの個性豊かな建築で構成されています。
ヴィトラにとってのデザイナーとは
ヴィトラでは、すべてのデザイナーを“authors”-「著者」と呼んでいるといいます。ヴィトラは、 衝撃を受けたイームズ夫妻との出会い以降、数々のデザイナーとともに多くのプロダクトを生み出してきました。彼らが持つ個性豊かな世界観と、ヴィトラが持つ創造的な技術とが融合することによって 生まれてきたプロダクトは、まさに「オリジナル=本物」であり、そんな彼らに敬意を表してそう 呼んでいるのです。
ヴィトラ名誉会長であるロルフ・フェルバウムが、「デザインは私たちの日々の暮らしをより良くす るものである」と語るように、ヴィトラの発信するデザインは、社会に必要とされ、環境への配慮も欠かさない、そして長い年月をかけて愛着を育むことのできる製品であることを謳っています。その精神の中で生まれてきたデザインはすべて、“同志”ともいえるデザイナーたちとの協働の歴史でもあるのです。
“本物のデザイン”を発信すること
名作と評されるプロダクトに、オリジナル品とコピー品とが混在する時代。そんな世の中に対して、ロルフ・フェルバウムは警鐘を鳴らし、こう語っています。
「コピー品を作る業者や人たちは、自分達が本物の形だけを真似た模造品を作っているという自覚をもってコピー品を製造しています。そして、正式な権利をもったメーカーが作っている製品も同様だと誤解しています。」
そのような状況に対してロルフは、コピー品では見過ごされているであろう、デザインの本質を理解する重要性を説きます。
「デザインの本質とは、問題を解決することと、その方法です。」
このロルフの言葉は、名作といわれるプロダクトへの理解を深めるヒントとなります。名作を遺してきたデザイナーたちは、目の前にある問題を解決するためにプロダクトを生み出す。そしてそこには、長いキャリアを掛けてそのプロダクトと向き合い、試行錯誤を重ねながら完成させてきた歴史があります。ただ、その名品を時代を越えて遺し続けるには、新しい時代に合わせたアップデートが必要となる場合も多々あります。
そこで最も必要となるのが、デザイナー本人またその正当な継承者と、メーカーとの間の信頼関係です。デザイナーとメーカーがそのプロダクトに宿る想いを共有し、お互いに対話し、協力してひとつのデザインを遺していく。
「その過程を経ることのないコピー品は、消費者にとって手に取りやすい価格であったとしても、デザイナーの想いやこだわりに対しての理解や配慮を欠いており、“偽物”と表現せざるを得ません。」
そう語るロルフには、揺るぎない強い信念を感じます。ヴィトラがデザインを発信する根底には、デザインへ向ける深い尊敬と探求心があるのです。
ヴィトラの製品やさまざまな取り組みからも、そんなブランドポリシーを感じ取ることができます。過去も、これからも、“デザイン”への探求を止めないヴィトラは、私たちの暮らしに彩りだけではない愉しさを、きっともたらし続けてくれることでしょう。
参考文献
・Vitra/幸運な偶然の積み重ね -ロルフ・フェルバウムへのインタビュー
https://www.vitra.com/ja-jp/magazine/details/many-things-simply-just-happened
・Vitra/オリジナル・本物とは -ロルフ・フェルバウム
https://www.vitra.com/ja-jp/magazine/details/the-original
・Vitra/冊子「The Original」Stories about the power of good design