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2023.10.12 THU

Vol.1 “デザイン”の本質を世に広めるヴィトラ(前編)

Vol.1 “デザイン”の本質を世に広めるヴィトラ(前編)

コンテンツ・テキストデザイナー 安達 剛士

1982年、鳥取県生まれ。
北欧インテリアショップに10年以上勤務し、鳥取、東京で約8年間店長を経験。北欧の暮らしにある本質的な豊かさに魅了され、自分らしさを楽しめる暮らし、コーディネートを多数手掛けた。
2022年より故郷の鳥取に戻り有限会社フォーリア・インテリア事業部を設立。インテリアコーディネーター資格を持ち、空間ディレクションの他、暮らしを楽しむ発信を行うなど広くインテリアに携わる。
2児の父でありながら、子どものように好奇心旺盛なインテリア愛好家。

“Designーデザイン”とは

インテリア業界におけるデザイナーの巨匠、チャールズ・イームズはかつてこのように語りました。

“Design is a plan for arranging elements in such a way as best to accomplish a particular purpose.”

デザインとは、特定の目的を最良な方法で達成するために、要素をどう配置すべきか計画することだ。

チャールズ・イームズとレイ・イームズ

デザインとは、単に優れたフォルム(形、形状)だけで評価されるものではなく、問題解決の手段であるとする名言。他にも、Appleの創業者であるスティーブ・ジョブスや、Dysonの創業者であるジェームズ・ダイソンなど、多くの偉人もデザインを評価する基準として“機能性”の重要性を説いています。

「デザイン」という言葉は日常に溢れ、カッコいいデザインのTシャツ奇抜なデザインのポスターなど、至るところで耳にします。この場面におけるデザインは、「優れたフォルム」を意図して発せられていることが多いようです。しかし、デザインの本質は、もっと深いところにあります。目に見えない仕組みや思考などもデザインのひとつ。そして、そのデザインを紐解くと、誕生に至るまでの背景やデザイナーの想いなど、表面的には見えない何かが見えてくるものです。

1脚の椅子との出会いで人生が変わった男

スイスの家具メーカーであるVitra(ヴィトラ)は、ある“デザイン”に魅了されたことをきっかけに企業自体の方向性を転換し、さまざまな“デザイン”を世界へ発信するまでに成長したブランドです。過去の名作プロダクトのデザインを受け継ぐ一方で、世界中の優れたデザイナーとの協業による新しいデザインも創出しています。1950年にブランドが設立されてから半世紀以上を経て、ホームユースからオフィス、公共施設まで幅広い空間に向けて家具やアクセサリーを提供し続けています。

もともと店舗什器メーカーであったヴィトラ。その歴史が大きく動くきっかけとなったのが1953年でした。創業者であるウィリー・フェルバウムは、アメリカを旅する中で、ニューヨークのインテリアショップにあった赤いチェアに目を奪われます。それは、当時アメリカで活躍していた、チャールズ&レイ・イームズによってデザインされたDCWという椅子でした。

その椅子に魅了されたウィリーはすぐに家具メーカーとなることを心に決めます。彼はイームズ夫妻に直接会い、その熱を伝え、ヨーロッパ、中東における製造販売ライセンスを取得することに成功しました。そして1957年から、ヴィトラは家具メーカーとして歩み始めることとなりました。

チャールズ&レイ・イームズによってデザインされた「DCW」。当時、ロルフがニューヨークで最初に目にしたカラー「赤」がミニチュアには採用されている。

大火災による危機からの再建

1977年、ヴィトラの経営は、息子であるロルフとレイモンドに引き継がれました。そして、大きな転機が1981年、突然訪れることとなります。ロルフが海外出張中のある日、落雷でヴィトラの家具製造工場が大規模な火災に見舞われ、施設の大部分を焼失してしまいます。

経営を揺るがす大きな損害ではありましたが、フェルバウム兄弟に立ち止まっている時間はありません。もともと火災発生前から新社屋の建設を相談していた建築家のニコラス・グリムショーに、できる限り早期に立て直しを図れるようマスタープランを打診しました。そこで提案を受けたのが、プレハブ建築での工場再建でした。

          パントンチェアの試作風景

後にロルフ・フェルバウムはこう語っています。

「彼の設計方法は、まるでチャールズ&レイ・イームズのように、家具やプロダクトデザインを彷彿とさせました。既存の部品を利用したり、壊れた物同士を繋ぎ合わたり、細部まで効率良く、経済的な面も十分に考慮されていました。」

施設焼失から半年後、工場は再開される運びとなります。そして、工場に続いて設計する建物も含め、ヴィトラ敷地内を統一された「企業アイデンティティを表現する場」として再建していくプランを、ニコラス・グリムショーとともに計画しました。

   ニコラス・グリムショーの建築による新社屋

ヴィトラの今へと繋がる物語には、この後にまた訪れる新たな出会いが大きく影響しています。そんなヴィトラの方向性を決定づけたある人物とは。また、ヴィトラが伝える“本物のデザイン”とは。物語は後編へと続きます。


参考文献

・Vitra/幸運な偶然の積み重ね -ロルフ・フェルバウムへのインタビュー

https://www.vitra.com/ja-jp/magazine/details/many-things-simply-just-happened

・Vitra/オリジナル・本物とは -ロルフ・フェルバウム

https://www.vitra.com/ja-jp/magazine/details/the-original

Vitra/冊子「The OriginalStories about the power of good design

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