コンテンツ・テキストデザイナー 安達 剛士
1982年、鳥取県生まれ。
北欧インテリアショップに10年以上勤務し、鳥取、東京で約8年間店長を経験。北欧の暮らしにある本質的な豊かさに魅了され、自分らしさを楽しめる暮らし、コーディネートを多数手掛けた。
2022年より故郷の鳥取に戻り有限会社フォーリア・インテリア事業部を設立。インテリアコーディネーター資格を持ち、空間ディレクションの他、暮らしを楽しむ発信を行うなど広くインテリアに携わる。
2児の父でありながら、子どものように好奇心旺盛なインテリア愛好家。
目次
時代を越えても変わらぬポリシー
北欧・デンマークの老舗ブランド〈FDBモブラー〉。1950年代には、デンマークに2,000を越える販売拠点を持ち、国内最大の家具メーカーだった歴史を持ちます。デンマークモダン家具の黄金期とも言われた時代の終焉とともに一度幕を引いた後、数十年の時を経て2013年に再びデンマークで新たなスタートを切りました。ブランドが掲げるポリシーは今も当時と変わらぬままです。
「丈夫で、美しく、座り心地が良い、そして手頃な価格」
このブランドポリシーは、FDBモブラーが誕生した1942年当時としては、とても過酷な開発条件と言えました。それまでのデンマーク家具のイメージを一新した、軽快で機能的な家具へと変貌を遂げたスタイルは、同時に、デンマークの人々の暮らしに新たな価値観をもたらしました。さらに、近年は地球環境に配慮したものづくりを徹底している点も、FDBモブラーを語るうえで欠かせないポイントです(後述)。
美しいデザイナーズ家具をリーズナブルな価格でつくる意義
Fallesforeningen for Danmarks Brugsforeninger(デンマーク生活協同組合連合会)」(※略称「FDB」)の家具部門として設立されたFDBモブラーは、その母体が国内全土に持つネットワークによって、商品をより多くの人々へ届けることを可能にしていました。
(→ デザインに生きた人々の物語 Vol.8「新たな価値観を広めるために〜FDBモブラーのデザイナーたち〜」)
そんな中で、FDBモブラーが当時から一貫している信条、それは「“良質”なものは大多数の人にとって手の届くものでなければならない」ということです。富裕層のみが手にする贅沢品ではなく、一般国民が親しむことのできるプロダクトである必要性を説きました。それを実現するため、FDBモブラー製品は価値とデザインを追求し、その先にある最良な価格でなければならなかったのです。それは、1942年当時のデンマークが抱える課題への挑戦でした。
FDBモブラーの初代企画デザイン担当責任者、ボーエ・モーエンセンが手掛けたヒット作「J39」[i]は別名“The People’s Chair(みんなの椅子)”と呼ばれています。それはまさにFDBモブラーの哲学そのものです。モーエンセンを筆頭に受け継がれてきたその想いは、今でもFDBモブラーのものづくりにおける重要なポイントです。
長く受け継がれる製品を生み出す理由
FDBモブラーが長く受け継ぐことのできる製品を追求する理由。それは、ブランドが持って生まれた“協同”の精神によるものです。家族の価値観や民主的なコミュニティに焦点を当て、“共通の利益”に対する責任を持つブランドだからこそ、その製品は使い手の暮らしに長く寄り添うものでなければならないのです。こだわりは、プロダクトの“シンプルな美しさ”に表れていると言います。
時代を越えて親しまれるデザインは、その妨げになるような流行は追わず、美しさを損なうような余計な装飾も必要としません。また、毎日の使用に耐久性で応え、使う人とともに味わいを深めていくものであるという信念があります。その裏付けとして、木材、テキスタイルといった素材の選定や使用における耐久性の検証も徹底して行っています。それは今に始まったわけではなく、設立から80年を経て継続されるスタイルです。当時のクラシックなデザインを復刻させたモデルも、現代の新しいモデルも、同じ基準と価値観のもと生み出されています。
地球環境への取り組みもまた“共同の”責任
また、FDBモブラーが力を入れている柱として、環境へ配慮したものづくりが挙げられます。地球環境を考える取り組みもまた“共同の”責任と捉えているからです。それを実証しているのが「ノルディックスワン」[ii]の認証を受けている製品たち。環境負荷の低い製品として認められたことを示す環境ラベル制度であり、すべての製品にこの表示を掲げることをFDBモブラーとしての目標としています。
「私たちはデンマークで最も責任ある家具メーカーになることを目指しています。それが私たちのすべての活動の基盤であり出発点です。」
そう語る彼らの想い。現在、FDBモブラー製品はFSC® 認証木材 (FSC-C164841) を使用し、すべてのテキスタイルにOEKO-TEX または EU エコラベルのラベルが付与されています。また、二酸化炭素排出量を常に計算し、環境負荷に配慮した生産の最適化を図っています。
デンマーク最初の生活協同組合が生まれた1866年、それが発展し、デンマーク国内全体を網羅する組織としてFDB(デンマーク生活協同組合連合会)が誕生した1896年、インテリアの視点から国民の生活水準向上を図るためにFDBモブラーが設立された1942年、歴史が移り変わる中でも、皆に訪れる幸せな日常を支えたいという精神はずっと受け継がれています。
[i]現在はライセンスを引き継いだフレデリシア ファニチャーにて製造、販売されている。
[ii]多国間の制度としては世界で初めて導入された環境ラベル。参加国はノルウェー、デンマーク、フィンランド、アイスランド、スウェーデン。厳しい認証基準を設けていることで知られ、それをクリアした製品は40,000点を超えている(2022年時点)。