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2025.04.10 THU

Vol.10 最終章 ーリアルが伝えるデザイン:企画展の記録ー

Vol.10 最終章 ーリアルが伝えるデザイン:企画展の記録ー

コンテンツ・テキストデザイナー 安達 剛士

1982年、鳥取県生まれ。
北欧インテリアショップに10年以上勤務し、鳥取、東京で約8年間店長を経験。北欧の暮らしにある本質的な豊かさに魅了され、自分らしさを楽しめる暮らし、コーディネートを多数手掛けた。
2022年より故郷の鳥取に戻り有限会社フォーリア・インテリア事業部を設立。インテリアコーディネーター資格を持ち、空間ディレクションの他、暮らしを楽しむ発信を行うなど広くインテリアに携わる。
2児の父でありながら、子どものように好奇心旺盛なインテリア愛好家。

『デザインに生きた人々の物語展』を終えて

2023年6月に「Vol.1 時代を築いた北欧デザインのはじまり」からスタートした連載記事『デザインに生きた人々の物語』。その世界観を多くの人に実際に触れて体感してもらいたいという想いから、2024年4月からfremtidenの店舗で始まったのが、『デザインに生きた人々の物語展』でした。会期中は本当に多くの皆さまにご来場をいただき、嬉しいお言葉も多数頂戴しました。企画展を2025年1月の会期をもって無事終了することができた感謝の気持ちも込め、連載の最後に回顧録として締め括ります。

『デザインに生きた人々の物語展』

会期:2024年4月 ー 2025年1月

場所:fremtiden内ミュージアム・イベントスペース「mono-niwa」

読み物の中の世界観が目の前に

月ごとに変わる『デザインに生きた人々の物語展』のテーマや会場レイアウトは、連載『デザインに生きた人々の物語』の各話をもとにしたものです。長く愛される北欧デザインのルーツについて、デザイナーに焦点を当てて紐解いたこの連載。それを現実世界で再現するために、できる限り忠実に記事に沿ったプロダクトを並べました。マスターピースともいえる北欧の名作椅子が、展覧会規模のボリュームで揃い、それも全てに座って体験、購入もできるというのがこの企画展の最大のテーマ。歴史的な逸品が並ぶ圧巻の光景は、プロの方々の目から見ても驚きだったようです。

“椅子の中の椅子”とも呼ばれる「The Chair」、“世界一美しい肘掛けを持つ”といわれる「No.45」といった、デンマーク家具人気の火付け役ともなったといわれる作品群のほか、“デンマーク近代家具の父”コーア・クリントから後進へと受け継がれていったリ・デザインを象徴する一連のプロダクト、また、デンマーク家具の歴史を語る上で欠かせない数々の名作が一堂に会した空間。それぞれのプロダクトに秘められたストーリーについて他のプロダクトと関連付けながら理解を深め、それと同時に、その裏側にある卓越したものづくりも、座って、触って体感していただけるイベントとなりました。

名作椅子の座り心地を、数珠繋ぎに満喫

会場の楽しみ方は他にも。各椅子に設置された説明の札には、その椅子の紹介とともに“next chair”の文字。ひとつの椅子に座ると、会場内にある次に試すべき椅子も示してくれるという仕掛けも好評でした。一般的な展覧会では座ることが許されている椅子が限られていたり、座り心地の比較をゆっくりと楽しむことが憚られたりと、名作に触れる機会が制限されていることも多いのが実情です。名作椅子に気軽に座る。名作デザインがとても身近な存在である北欧の文化を、こういった体験を通して知っていただくことができればと考えました。

北欧デザインに精通するプロが続々と登壇

この企画展では、各会期のテーマにまつわる特別なゲストを毎月お迎えしてのトークイベントを開催しました。北欧デザイン研究における学識者の先生方や北欧インテリアブランドの方々にご登壇いただき、プロ・アマ問わず親しみやすく、さらに、研究者やメーカーだからこそ知る裏話も含めて惜しみなく語っていただきました。同じデザイナーの話であっても、語り手が変わるとまた違う視点が見えてくる。そんな発見もありました。

トークイベント登壇ゲスト

織田 憲嗣 氏(椅子研究家・東海大学名誉教授)

今田 憲一 氏(FDBモブラー日本総代理店 株式会社グリニッチ)

郡司 圭 氏(カール・ハンセン&サンジャパン)

小泉 隆 氏(九州産業大学建築都市工学部住居・インテリア学科教授)

小林 久子 氏(scandinavian LIVING)

多田羅 景太 氏(京都工芸繊維大学デザイン・建築学系助教)

安原 駿 氏(フリッツ・ハンセン ジャパン)

(以上、五十音順)

 

ご協力いただきました皆様には、心より感謝申し上げます。

回が進むにつれイベントの認知度も上がり、最終的には定員50名もあっという間に埋まってしまうほどまでの盛況ぶりでした。また、大変嬉しいことに、全イベントへ皆勤賞でご参加いただく方々も。イベントにご参加された皆さんも大変関心を深められたご様子で、イベント終盤の質問タイムも毎回のように白熱。イベント終了後に渡ってもゲストへの質問延長戦が繰り広げられました。

体験することで深まる北欧デザインへの理解

本企画展を通して、皆様からのリアルな声もたくさん伺うことができました。

「書籍を見て知ってはいたけど、初めて実物を見た」

「北欧を代表するする椅子に、こんなにたくさん一気に座ったのは初めて」

といった、歴史的な名作に触れる機会を喜んでいただく声や、

「デザイナーやプロダクトなどの背景を知って、北欧家具に一層興味が深まった」

「貴重なお話を聞けて、北欧家具に対する見方が変わった」

など、北欧デザインの本質の理解を深めていただいく声もありました。

中には、記事も読みながら企画展に何度も足を運んでくださる方もいらっしゃるなど、文字通り“読み物の世界”と“リアルな世界”が連動する、意義深い取り組みとなりました。

「どうぐ」との向き合い方を考えてみる

“暮らしの中にある「どうぐ」が、長い年月を経て名作と呼ばれる存在になるには。”

連載記事『デザインに生きた人々の物語』Vol.1〜Vol.9では、そんなテーマについて北欧家具デザイナーを通して深掘りしてきました。名作誕生の背景にあった人と人のつながりやこだわりもまた、そのプロダクトの価値を深める必要なストーリーでした。それをさらにエキシビジョンとして実際に体験することで、何気なく目の前にある1脚の椅子が、身近で愛着の湧くものに変わります。

そんな自分にとっての特別な1脚を迎えることではじまる、心豊かな暮らし。その先に新たな価値が生まれていくのです。この連載と企画展が、そんなきっかけになると嬉しく思います。名作と呼ばれる「どうぐ」を未来へと受け継いでいくのは、私たち自身なのです。

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fremtiden

「fremtiden」はデンマーク語で
「未来へ」を意味する言葉。
私たちの決意と願いを込めて名付けました。

携わるすべての人たちが心豊かに過ごすために
「過去〜今〜未来」への道のりを
美しいところも、今起きている課題も
すべて正直に、皆等しく伝えます。

お店を通して、育てる人、作る人、使う人
みな理解し合い
ものにまつわるすべてを、
大切に丁寧に愛着をもって作り
使い、育て、次の世代へ
繋げていくことを願っています。

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