コンテンツ・テキストデザイナー 安達 剛士
1982年、鳥取県生まれ。
北欧インテリアショップに10年以上勤務し、鳥取、東京で約8年間店長を経験。北欧の暮らしにある本質的な豊かさに魅了され、自分らしさを楽しめる暮らし、コーディネートを多数手掛けた。
2022年より故郷の鳥取に戻り有限会社フォーリア・インテリア事業部を設立。インテリアコーディネーター資格を持ち、空間ディレクションの他、暮らしを楽しむ発信を行うなど広くインテリアに携わる。
2児の父でありながら、子どものように好奇心旺盛なインテリア愛好家。
目次
広く愛され続ける北欧の名作
デンマーク建築界の巨匠、アルネ・ヤコブセンがデザインを手掛けた北欧の名作家具、「Series 7 / セブンチェア」。フリッツ・ハンセン社を代表するこのベストセラーアイテムは、発売から優に半世紀を超えた今でも根強い人気を誇ります。まさに、家具の歴史においてもアイコン的な存在。販売台数はこれまでに数百万脚にも上り、今も変わらず世界中で愛されています。なぜ、そんなにも支持されるのでしょうか?セブンチェアが愛されるその理由に、歴史やものづくりの視点から迫ります。

1955年、セブンチェア誕生。その背景
セブンチェアが発表された1955年。第二次世界大戦終結から10年程で戦後の経済復興も進み、デンマーク国民の消費も増大していた頃です。ただセブンチェアの開発について語るには、まずその前身となる「アリンコチェア」について触れておかなければなりません。1952年、フリッツ・ハンセンとアルネ・ヤコブセンの協働によって誕生したアリンコチェアは、初めて背座一体となった三次元曲面の成形合板シェルを採用した歴史的な1脚です。当時革新的であったこのデザインの背景には、いち早く成形合板技術を確立していたフリッツ・ハンセンの先見性と、困難にも屈しないヤコブセンの情熱がありました。
(→デザインに生きた人々の物語 Vol.5 デザイナーと協力者たち(後編))

技術の発展により新たな名作も誕生
それから3年、アリンコチェアに改良を加え進化させたのがセブンチェアです。当時、アリンコチェアは3本脚(後に4本脚も発売)でしたが、セブンチェアは安定性の増した4本脚、また肘掛け付きのタイプも併せて発売されました。ヤコブセンは肘掛け付きのタイプも気に入っていたそうですが、特に肘掛けなしのタイプがその人気を後押ししました。後に「グランプリチェア(1957年)」や「リリー(1970年)」などへ発展し、成形合板シェルで成功を収めたフリッツ・ハンセンにとって、代名詞ともいえる椅子です。

セブンチェアが誇る、驚くべき強度
セブンチェアといえば、薄い板が美しい曲線を描くフォルムに、細い金属製の脚が象徴的。軽量で動かしやすく、見た目にも軽快感を感じます。一見華奢な印象も受けますが、実は耐久性十分。そこにこそ、フリッツ・ハンセンの醍醐味が隠されています。薄くスライスした9層のベニヤからなる成形合板シェル。背もたれから座面へと繋がるくびれの部分は、大人が乗っても支えられるほどの抜群の強度を持ちます。

またそのくびれがしなることで、座った際に程よい弾力が生まれ、ピタリと寄り添うような座り心地を実現しています。そんな柔軟性と耐久性は、長い歴史の中で進化を遂げてきた技術力が窺えるポイントです。構造だけでなく素材にもこだわるクラフツマンシップにより、フリッツ・ハンセンは1872年の創業当時から変わることなく高い信頼を得続けています。

セブンチェアが魅せる多彩な顔
セブンチェアは、バリエーションの多さも大きな魅力です。板座、レザー、ファブリックのような素材のバリエーション、それに加えて豊富なカラーバリエーション、さらに、アームレストやキャスター付きなどの機能性がプラスされたタイプも選ぶことができます。そんな自分のスタイルや好みにぴったりの1脚にカスタマイズできる感覚も長く愛される理由でしょう。また、4本脚のタイプはスタッキングが可能で、暮らしにフィットしやすい手軽さも感じられます。


世界的なスタンダードになる極意
北欧家具の中でも圧倒的な知名度を誇るセブンチェア。それは、世界中の人が同じ価値観を共有できるデザインであることも意味します。多くの人にとって安心できる品質と親しみやすいデザインだからこそ、長く受け継がれ、道具としてのスタンダードになっていくのです。

デザイナーとブランドの協働によってプロダクトが生まれ、それが使い手によって価値を深められていく。そんなストーリーが1脚の「椅子」を特別な存在にしていくのです。それはまた新たに出会う人にとって、愛すべき1脚を見つけるヒントになっていきます。
